上達の指南

中野寛也九段の「打つ前にひと呼吸」

(2)価値のある石を見極める

(寄稿連載 2014/09/02読売新聞掲載)

 少し先のことを考えるということが大切なのです。数手先にどうなるかを頭に描いて、それでいいのかどうか判断してから打つ手を決めてほしいのです。相手の石音が聞こえたらすぐ石を持って打ち返すのではなく、先を見ながら打つ習慣をつけましょう。

 【テーマ図】 上辺に△と打ち込まれた場面です。黒石が左右に割かれた感じですが、どちらの石が価値があるのか、その判断が将来を決めるのです。
 右側の白が強い壁なのか、それともまだ不安定な石なのか、その見極めによって次の方針が決まります。

 【1図】 大事なのは▲の方です。黒1と飛んで、左右の白を分断します。黒石が中に出て行けば、右側の白はまだ根拠がはっきりしないことが分かります。
 ここは堂々と戦いを挑む場面でした。白2とこすむくらいですが、黒3、5とつけのびて、ぐいぐい決めて行きます。右辺の黒が強いので白は油断できない。白10の伸びまで手を抜くことができません。
 黒11の飛びに回れば、上辺は黒の勢力圏です。△を丸のみにできれば大戦果ですし、逃げて来れば、じっくり攻めて主導権を握ります。

 【2図】 黒1とすべるのは大事な石を取り違えました。白2のボウシがぴったりです。危険な▲の動きを封じて、白が一気に楽になりました。黒1でイの飛びも、同じように白2のボウシが好点です。

●メモ● 中野九段は厚い碁で、その勢力を生かして戦いに持ち込むのが得意。大変な力戦派として有名である。ふだんは明るく穏やかで、はきはきと気持ちのいい人格者だから、棋風とのギャップが際立つ。対局相手にとっては、とても穏やかとは言えない盤上の力持ちである。

【テーマ図】
【1図】
【2図】