上達の指南

中野寛也九段の「打つ前にひと呼吸」

(3)相手を凝り形にさせる

(寄稿連載 2014/09/09読売新聞掲載)

 全局を見て、自分の勢力圏や相手の強いところを理解することが大切です。自分の強いところでは積極的に戦い、相手の強い石には近づかないのが賢明です。全局的に大切な方向を見極めて、石の働きに心を配るようにしたいものです。

 【テーマ図】 △とかかった場面です。左辺は白の強いところです。多少の白地は許すしかありません。黒が大事な方向は下辺だということが分かります。ただし、左辺が白地になるとしても、あまりに効率よく囲われてはたまりません。相手の強いところでは、どういう考え方をするのが正しいでしょうか。

 【1図】 下辺が大切ですから、黒1と受ければ方向は悪くありません。しかし白2と飛ばれると、左辺の白がいい幅で立派な模様に成長しました。黒1は方向はよくても、あまりに策がありません。

 【2図】 黒1、3とつけ切って、仕掛けたいところでした。白4の当てから6とつげば、黒7の押さえまでは利くことになります。それから、白8と抱えれば、黒3の石は逃げられませんが、それは承知の上。黒9と2子にして捨てるのが手筋で、黒11の当てから13、15と利かせます。
 白16まで黒2子を取って、白が猛烈に厚くなりました。しかし、元々が白の厚いところですから、これは凝り形なのです。黒17と断点を補って、下辺の黒模様が立体的になりました。黒の大成功でしょう。

●メモ● 中野九段は、子ども教室を開いている。自由に対局させ、自分で考えさせるのが基本方針。教え過ぎないように気をつけているという。何でもかんでも教えると、子どもを萎縮させることにもなるようだ。子どもの指導に携わる棋士たちと意見交換もしている。

【テーマ図】
【1図】
【2図】