上達の指南

中野寛也九段の「忙しい布石の打ち方」

(2)相手が打つ所見極める

(寄稿連載 2018/07/04読売新聞掲載)

 定石を作るだけなら、手順を知っていれば難しくないかもしれません。しかし、定石が一段落した後は、自分の力で碁を作っていかなければなりません。悩ましい局面ですが、それが碁の楽しみでもあります。全局を見渡して、一番魅力的な方向を見定めてください。

 【テーマ図】まだ締まりのない碁です。左上でひとつ定石が出来ていますが、ここで最優先のポイントはどこでしょうか。三つの隅をどういう順番で動くべきなのか見定めなくてはなりません。自分の小目を締まるべきか、相手の小目にかかるべきか、あるいはもっと大事な場所があるでしょうか。

 【1図】白1の締まりは大場です。もちろん悪い手ではありませんが、この局面では最優先とは言いかねます。黒2と挟まれると、左上と呼応して、黒に主導権を握られます。しばらくは対策に追われることになるでしょう。相手に先に仕掛けられるのは、気分のいいものではありませんし、流れを引き戻すのも簡単ではありません。

 【2図】優先すべきなのは右上です。白1とつけるのが大きいのです。相手に仕掛けられる前に、先に動いて主導権を握りたいところです。黒2のカカリはもちろん大きいのですが、それには白3と同等のカカリで対応できます。まずは相手の打ちたいところを見極めましょう。そこが右上だと分かれば、白1に先着するのを急ぐべきだと気付くのではないでしょうか。

●メモ● 中野九段の棋風は手厚く、バランスの取れた本格派。いざ戦いになればひるむことなく力を発揮する。激しい棋風とは対照的に、穏やかで明るい性格で、棋士仲間はもちろんアマチュアのファンにも人気がある。棋戦の解説も明快で分かりやすく、ファンに対する大盤解説のうまさにも定評がある。

【テーマ図】
【1図】
【2図】