上達の指南

中野寛也九段の「忙しい布石の打ち方」

(3)全局見て着手の判断を

(寄稿連載 2018/07/11読売新聞掲載)

 締まりに回る暇もなく、布石が進行する場合もあります。石が接触して、一段落するまで他に転じられないのです。大きな定石が始まると、途中で手を抜くわけにもいきません。そんなときは、どこかで締まりやカカリに先行したくなりますが、そのタイミングが難しい。手を抜いていいのか、しっかり形を整えるべきなのか、見極める目を養いましょう。

 【テーマ図】右上と左上で定石が打たれました。定石としては一段落ですが、この局面で逃せぬポイントがあります。もちろん白Aの締まりや白Bのカカリも大きいのですが、それでいいのか、全局を見て判断してください。

 【1図】白1の締まりは大場ですが、すかさず黒2と打ち込んで来るでしょう。これが厳しい。上辺の白を消すというより、左右の白を攻めようという手です。左右の隅の黒が堅いですから、大威張りで暴れて来るでしょう。白は二つの弱い石を抱えて、苦戦が予想されます。

 【2図】上辺の白の構えが薄いですから、白1と一手備えるのが大事なポイントでした。ふっくらと陣形が整っていい姿になっています。黒2の締まりなら、それから白3の締まりに回ります。黒2で3とかかってくれば、白Aと受けていて十分。黒Bあたりに開けば、右下のカカリに向かいます。

 もし、上辺の△がCにあるなら、左右の白は安定していますから、手を抜くことも可能でした。

●メモ● 中野九段は、子ども教室を開いていて、家族ぐるみで運営している。心がけているのは、「自由に対局させて、自分で考える力を付けさせること」。あれこれと教え過ぎるのは、子どもが本来持っている可能性を狭めかねないので、一歩引いて見守るのが肝心だという。

【テーマ図】
【1図】
【2図】