上達の指南
(2)取らせることで喜び倍増
(寄稿連載 2016/10/25読売新聞掲載) 中盤戦は石が接触し、打つ手にも力が入ります。勢いで打ってしまって、後で後悔する経験は誰にでもあるものです。こういう時こそ一歩立ち止まり、盤面を大きく見渡すことが大切です。
【テーマ図】▲の7子が取られようとしています。逆に□の3子が取れそうです。よく見れば◆と◇の2子同士もどちらかが取られそう。込み入った状況です。ここで正しい判断ができる人は、素晴らしい力の持ち主といえるでしょう。
【正解図】びっくりされるかもしれませんが、正解は、どれを助けるわけでも、どれを取るわけでもありません。黒1と止めるのです。ここが最大なのです。白は喜んで7子を取ってきますが、黒3を利かせて、黒5から7と中央に素晴らしい大模様の完成です。さらに白8などと取ってくれるなら黒11まで、とんでもない大きさの地が完成します。
白は計9子も取りましたが、たいしたことなく、黒は捨てることによって大きな地=喜びを得ることができたのです。
【失敗図】黒1と7子を助けるだけでなく、白3子も取れる。普通はこう打ちますよね。白2に、さらに黒3と2子も取れますが、白4から6と中央に進出され、黒の勝ちにくい形勢となってしまいます。黒3と取ったため白A、黒B、白Cという大きな寄せも残りました。取ることより、取らせることができれば囲碁の楽しさも倍増します。
●メモ● 信田六段は木谷道場での内弟子時代、記録係をよく務めた。持ち時間の長かった時代。中でも藤沢朋斎九段、梶原武雄九段ら終局が遅くなることが多い棋士の対局を希望して担当した。帰りの電車はなく、棋院での仮泊だったが、道場では味わえないいっときの開放感を楽しんだという。