上達の指南

信田成仁六段の「大事な石つまらない石」

(4)部分より全体で判断を

(寄稿連載 2016/11/08読売新聞掲載)

 相手の石が取れ、同時に自分の石が助かる。迷うことは何もない――。本当にそうですか。

 【テーマ図】黒Aで△6子をウッテガエシで取ることができます。こんな所を見つけたらうれしくて取りたくなるのが人情です。でも左下の様子はどうですか。□と急所に切りが入っています。△6子を取るのか、左下に手を入れるのか。どちらの価値が大きいでしょう。

 【正解図】黒1と抱えます。こう打てば盤石の生きです。白から1と下がられると黒は壊滅します。その出入りはなんと40目強です。黒が生きると5目強の地、白1と下がると35目強の白地が完成――という計算です。白2は実質18目にすぎません。
 そして、実は白2より黒3の方が価値が高いのです。黒11までの進行は相場ですが、白地は90目強で、黒地はなんと110目を軽く超えています。白は2で3と打ち、黒2、白A、黒B、白Cなら好勝負でした。

 【失敗図】黒1と取った時の黒の壊滅の図を示します。こうなると白の地はあまりに大きく、すでに挽回不能と言えます。
 石を取ることは気持ちがよく、取られると気分も落ち込みます。でも、つまらない石は取らせても大丈夫です。むしろ助けることにより、大きな不安と嫌な流れを呼ぶことが多くあることを知ってください。石の価値は部分の得失にこだわらず、全体を見渡して判断することが重要です。(おわり)

●メモ● 信田六段は東京・新宿と千葉県船橋市で早朝教室を開いている。開始時間は午前7時と7時半。早起きは苦にならない。木谷道場での内弟子時代から習慣となっている。教室の後、会社に向かう生徒もいるという。「朝活で脳を活性化し、仕事もはかどれば素晴らしいでしょう」

【テーマ図】
【正解図】
【失敗図】