上達の指南
(2)被害者意識から抜け出す
(寄稿連載 2015/06/09読売新聞掲載) 置き石がなかなか減らない最大の理由は「被害者意識」にあります。うわ手恐怖症と言ってもいいのですが、とにかく自分の石ばかりが弱く見えてしまう。その典型例が今回の題材です。
【テーマ図】 白1のボウシが来ました。少しも恐れる手ではないのですが、うわ手に打たれるとどうしても「▲がピンチだ」と思ってしまうようです。
【1図】 黒1、3と辺で所帯を持って生きようとする例が実に多いのです。黒5、7までを打ち、生きを確保してひと安心といった様子ですが、結果は大失敗。白石をすべてつながらせて強化してしまった罪は重い。黒が得た地はわずか数目。これでは置き石がいくつあっても勝てません。
【2図】 黒には左右に加え、天元にも味方がいます。黒1もしくはAとこすんで中央に進出すれば、これがそのまま白石を分断する攻めの手段となります。黒に不安はなく、白はバラバラ。黒の大優勢は明白でしょう。
【3図】 黒1の肩衝(つ)きも立派な一手。これも自分が頭を出しながら相手を分断する手であることに注目してください。
【4図】 黒1のケイマも同様に好手。つまり具体的な着点はさほど大きな問題ではなく、石の方向性さえ正しければ、どの手も正解ということです。
被害者意識という先入観を持たず、石の力関係を冷静に見極めることが、置き石を減らす第一歩だと断言します。
●メモ● 大垣九段の趣味はゴルフ。棋士のなかでもトップクラスの腕前で、自身が言うには「碁で言えばアマ5段くらいかな」。セールスポイントはがっしりした体が繰り出すロングドライブ。300ヤードを超えることもある。スイングや道具の研究にも熱が入る。