上達の指南
(1)戦いは有利な場所を選ぶ
(寄稿連載 2007/05/21読売新聞掲載) 布石の終わり、中盤戦の始まりには、どこから戦いを起こすか、という一局の大方針を決める分岐点があります。
みなさんの碁を拝見していると、やきもちからむちゃな打ち込みをしたり、見通しの立たない戦いを挑んで、いたずらに形勢を損なってしまうケースがあります。
石の勢いや気合上、やむをえない場合もありますが、戦いを始めるのならばすこしでも有利に運べる場所を選びたいものです。
【テーマ図】 アマチュアの実戦から図を採りました。右辺、黒23とついだところです。
隅と辺の大場はだいたい決まりがついています。ここで白が仕掛けるとして、AからCのうちどこから戦いを挑みますか。
【正解図】 この局面では白1が無理のない打ち込みです。
直接の目的は黒▲への攻め。黒2、4なら白3、5と飛び合って、この黒の一団をにらみつつ右上黒の模様拡大をけん制します。これでいわゆる「一局の碁」でしょう。
【失敗図】 白1の打ち込みでは、黒の勢力圏内での戦いとなってしまいます。平易に黒2から4までの進行でも、見るからに白苦戦です。周囲の黒には弱点がありませんから、白の無謀な挑戦といえるでしょう。
また、白1でAもうまくはいきません。黒▲への攻めを狙いたい気持ちはわかるのですが、この黒1子にはBの開きとCのスベリという余裕があって、それほど弱い石ではありません。
なので、白Aとこぶしをふりあげても黒に相手をしてもらえず、黒Dと上辺の模様拡大を図られてしまいます。
これでは下辺を割った利得より、上辺の拡大を許した損害のほうが大きい。白の失敗です。
●メモ● 岡田六段は東京生まれ。1989年入段。2003年六段。第4期女流プロ最強戦優勝。安倍吉輝九段は実父、岡田伸一郎八段は夫。豪腕ぞろいの女流碁界でも、指折りの力強さで知られている。