上達の指南
(2)石を捨てることの大切さ
(寄稿連載 2006/07/10読売新聞掲載) 相手の石を取るのは気分のいいものです。その一方で、自分の石を取られるのは嫌いな方が多いでしょう。碁盤は広いので、局面によっては自分の石を軽く捨てることはとても大切なことです。価値の低い石にこだわっていると、どんどん深みにはまり、自分で不利を招いてしまいます。うまく石を捨てる快感を知っていただきたいものです。
【テーマ図】 実戦でも出てくる形。白△と付けられたところです。白の強い勢力の中に黒3子が取り残されています。軽いサバキで脱出を図って下さい。
【失敗図】 黒1とハネ出したくなります。しかし当然、白2と切ってこられます。黒3以下、白10までなんとか脱出はしましたが、これはもがきです。右辺で生きはありませんし、脱出した先で目を作ろうとすれば、かなりのいじめにあいそうです。決して得にはならないでしょう。黒7で8に切っても白7と伸びられて無理です。そもそもこの黒の形、重苦しい感じがしませんか。
【正解図1】 ここは何もせず、単に黒1と付ける一手です。白2とはねて切断してくれば、黒3から黒5とひとつ伸び、黒9の抱えまで楽に脱出できます。
黒の形は軽快でしゃれていますね。それにこれは白を分断しており、攻めの楽しみがあります。Aからの動きだしと右辺の白数子への攻めが見合いとなっています。黒大成功と言っていいでしょう。
【正解図2】 黒1の付けには白2と伸びるくらいでしょうか。黒3を決めてから、黒5まで先に頭を出して黒にはスピード感があります。こうなれば今度は黒Aのハネ出しが厳しい狙いとなります。失敗図と比べてみて下さい。白を固めていないので、白Bの切りには黒Cと当て、白を分断して攻めに回っています。
●メモ● 大沢三段は小学6年の時、小学生名人戦で6位入賞。この大会の入賞者は2位山下敬吾棋聖、3位秋山次郎八段、4位黒瀧正樹五段、5位荒木一成五段とそうそうたる顔ぶれ。翌年、院生となった。