上達の指南
(1)弱い石の頭出しが最優先
(寄稿連載 2005/04/25読売新聞掲載) 中盤の戦いの急所の一つに、彼我の石の強弱を見極めることがあります。それにどう対応するのか――その基礎的な考え方を、私の実戦を題材にしてお話ししたいと思います。テーマ図に対する答えとして便宜上、正解図と失敗図を掲げはしますが、正解云々(うんぬん)よりも「なぜそう打ったのか」という考え方を理解していただければと思います。
【テーマ図】 白番です。まだ盤上には空間が多く、目につく大場もたくさん残っていますが、その中でも「この一手」と言うべき急場があります。
【1図】 白1の飛びが、絶対に逃せない急所です。
この局面で最も注目すべき所は「上辺の白が弱い」ということです。その意識さえ持てれば、白1の飛びには容易に到達できることでしょう。
そして、石の強弱の認識に続いてもう一つ重要なのが「弱い石があったら、まずは頭を出すことを考える」という鉄則です。
白1の飛びを、もう一度よくご覧になってください。自らの弱石の補強のみならず、右辺の黒模様の発展を未然に防ぐ一手であることがお分かりいただけるでしょう。いわば「一石二鳥」の絶好手となっているのです。
【2図】 白1など他の大場に向かってしまうと、今度は黒2のケイマが、
・白への封鎖
・右辺の黒模様の構築
という二つの目的を兼ねた一石二鳥の絶好手となってしまいます。このような手を相手に許してはなりません。
●メモ● 酒井真樹八段は埼玉県出身、36歳。小林光一九段門下。1987年初段、2001年八段。98年、第24期名人戦リーグ入り。