上達の指南
(2)足早な棋風に合う伸び
(寄稿連載 2008/12/01読売新聞掲載) 今回取り上げるのは、昔からまれに打たれていましたが、張栩名人が今年、10局近く打ったことで見直された伸びです。ほかの棋士にも広がり、一気にポピュラーな手になりました。
【テーマ図】黒1がその伸びです。私が調べたところ、張名人が初めて打ったのは今年1月10日の本因坊戦リーグ、王銘エン九段との対局です。
驚いたことに、同じ日に奥さんの小林泉美六段も公式戦でこの伸びを打っています。こんな偶然があるとはとても思われません。2人の共同研究の成果でしょうか。あるいは張名人が着目し、奥さんに教えたのかもしれませんね。
【1図】かつては黒1と白2を交換して黒3と伸び、以下、白6の押さえまでが普通でした。でも黒▲の活力が乏しく、人気のない定石でした。
【2図】これに対し、黒1だと、黒5からはねついで左上で地を稼ぎ、黒9、11と上辺に展開するのが代表的な変化。白も厚い姿なので不満はありませんが、黒は両方を打っており、張名人の足早な棋風によく合った展開です。黒▲が働いているのが1図との大きな違いです。
【3図】2図の白4では3図の白1のハネもあります。これだと白は先手をとって7と上辺を挟むことになりそうです。黒▲に活力があるのは2図と同じです。
●メモ● 坂井七段の通算成績は269勝103敗1分け。勝率7割2分。今年は30勝18敗。2003年には関西棋院第一位決定戦で初優勝した。地にからい棋風だが、最近は「どんな碁でも打てるように」と、自ら戦闘を仕掛けるなど棋風の幅を広げている。