上達の指南

瀬戸大樹六段の「忘れられない局面」

(1)ソウ九段の石運び

(寄稿連載 2005/11/07読売新聞掲載)

◆2003年中国乙級リーグ第6戦 白番 瀬戸大樹四段 黒番 ソウ薫鉉九段

◆足が速いソウ九段の石運び
 自分の棋風について聞かれたら、「よく分からない」と答えるしかありません。二者択一の局面を迎えると、地を意識した手を選んでしまう場合が多いようです。戦いを避け、安全に勝とうという意識がどこかで働いているのかもしれません。藤沢先生(秀行名誉棋聖)からは「もっと戦う力をつけろ」といつもアドバイスされています。
 今日から4回にわたり、「忘れられない局面」というテーマで、ぼくの打ち碁を題材にお話しさせていただきます。どれも思い出深く、印象に残る局面ばかりです。

 【テーマ図】 この棋戦はチーム4人編成で、7回打つシステムです。ぼくは深センチームから出場しました。ソウ九段とは初手合。
 黒35から41までの一連の石運びにはソウ九段らしいひらめきがあり、全く予想していなかったので、驚かされました。
 白も46のツケが成立したので、56まで先手で形を作り、悪くないと思っていました。黒57で一段落。

 【変化図】 さて、次の一手です。局後、ソウ九段に最初に指摘されたのが白1のはさみでした。黒は2、4と当て継いで中央を補強するくらいのものですが、白はイのカカリに回り、「十分打てる」とのことでした。

 【実戦図】 白1、3は15のコスミを狙ったのですが、少しも怖がってくれません。黒4、6と大場に先着されました。白7の前に、白10と置き、黒Aツギと換わっておくべきでした。そこで白7とはさみます。黒Bなら白Cのコスミがしゃれています。

 中央で力をためている間にどんどん稼がれ、追い抜かれてしまいました。足が速いですね。リーグ戦は5連勝の後、2連敗でした。

●メモ● 瀬戸六段は1984年三重県生まれ。21歳。2000年入段、04年六段。関西棋院所属の若手のホープで、今年10月末の成績は27勝9敗。新人賞、道玄(殊勲)賞など同棋院の賞を数多く受賞している。

【テーマ図】黒55(48)
【変化図】
【実戦図】