上達の指南
(1)大胆発想で初タイトル
(寄稿連載 2011/02/01読売新聞掲載) 苦しい石ができたとき、助けることに腐心し一層苦しくした経験は誰にもあると思います。
大胆に発想を転換し、石を捨てることを考えると、戦い方に幅が出て局面を好転できる場合があります。私の実戦を題材にお話しします。
【局面図】 1勝1敗で第3局を迎えました。初タイトルがかかった一局です。
白12のコスミツケは珍しく、黒13以下白24まで、見たこともない変化になりました。包囲された黒の5子をどうするか。生きることは可能ですが、「苦しんで生きるよりは、捨ててみよう」と考えました。
【実戦図】 捨てるとなれば楽で、黒1のツケから3と切りました。黒3でイとはねれば白ロ、黒ハで生きますが、白5となってはつらい姿です。実戦は白4以下8まで、私の想定どおり黒5子を取ってくれ、黒9のポン抜きから11と飛んで伸び伸びしました。次にニのハネ出しとホのツケ越しを見合いにし、捨て石の効果は十分です。
【参考図1】 途中、白1と下がるのもありました。黒は2の伸びから4と脱出し正面から戦うことになります。白は実戦よりもよかったと思いますが、これでも黒は十分戦えます。
【参考図2】 黒1のツケに白2と下がって抵抗するのは、黒3、5以下突破して11となれば黒有利な戦いです。相手が取りに来なければ戦う用意をしておくことも肝要です。
●メモ● 白石新人王は1984年3月生まれ、神奈川県出身。26歳。首藤瞬七段、鈴木歩五段と同じ岩田一・八段門下。2005年入段、10年三段。昨年の新人王戦を制して、初タイトルとなる新人王を獲得した。「自分でも信じられなかった。これからは新人王の名に恥じない碁を打ちたい」
第35期新人王戦決勝三番勝負第3局
白 六段 三谷 哲也
黒 三段 白石 勇一