上達の指南
(3)常識を捨て最善手を探す
(寄稿連載 2015/04/14読売新聞掲載) 勝てば九段に昇段する大事な一局でした。有望だと本気で思っているからこそ、大きな碁で「5の七」の布石を採用しているのです。
【テーマ図】 黒1から7まで4か所で「5の七」に打てました。黒9の小目はこの布石の要の位置で、こうなれば自信があります。白10は深く入って来た印象です。黒11と攻め掛かります。黒13のケイマは反省しました。イのケイマの方が攻めながら地になりやすい。
白16、18のツケ伸びは、趙九段が悔やんでいました。黒21が白の根拠を奪う急所です。白22に受けてもまだ生きているとは言えないのがつらい。黒23と詰めて黒がよくなりました。
白16は黒の誘いに乗ってしまった感があります。
【1図】 白1と隅を守っておく方がいいようです。黒2と飛んでいい構えですが、この黒模様は広過ぎます。黒4の飛び下がりに、白5と入られると打ち方が難しかったでしょう。
【2図】 実戦の続きです。右下の白が心配ですから、白1のハネから5と当てて補強しています。黒6と飛んで下辺を黒地にすれば、不満はありません。白11と入って来ました。黒12のツケや14のコスミなど、一手一手の選択が難しい展開です。今までの常識を捨てて碁盤の中で最善手を探しています。それがこの布石の妙味です。黒20となれば「5の七」の布石が成功しています。黒中押し勝ちでした。
●メモ● 2年前に結婚して、1歳になったばかりの男の子がいる。夫人はアマ有段者で棋士に理解が深い。今は子育てに忙しいからネットで打つくらいという。それを蘇九段は横で見ているのだが、口は出さない。夫人も蘇九段の碁のことでは、勝っても負けてもなにも言わない。
第53期十段戦本戦
白 九段 趙善津
黒 八段 蘇耀国
(2014年10月)