上達の指南
(3)すぐにも打ちたい後続手
(寄稿連載 2010/09/07読売新聞掲載) 定石とひと口に言っても、いったいどこまでで一段落なのかがはっきりしない定石もあります。大ナダレや大斜などの大型定石はその典型例ですが、今回取り上げる基本定石も、そうした一例と言えるでしょう。
【テーマ図】 黒1、3とツケ引き、白4のハネ上げに黒5の外切り。「切った方を取れ」で白6と抱え、黒が7、9と実利につく。おなじみの高目基本定石ですね。一応、ここまでが定石とされていますが――。
【1図】 白1の押しが、今すぐにでも打ちたい要点で、ここまでを定石と言っても差し支えないでしょう。続く黒2、4のハネ伸びも立派な応手で、果たしてどこまでが定石なのか、断言しづらくなってきます。
白1に石が来たことで隅の黒に対して狙いが生じていることも見逃せません。
【2図】 白1の切りが成立するのです。黒2には白3とまくって5、7といった要領で、荒らしの手がかりを得ます。黒4で5だと白4のツギが当たりになるのが△の効果です。
【3図】 白の押しに対し黒が手抜きなら、白1のカケが後続の圧迫手段となります。黒は2と受けるくらいですので、白1は中央の力関係を優位にする効果的な利かしとなりました。
【4図】 黒から打つなら1のカケ。白2と換わるだけで1図や3図とは中央の力関係が一変しており、これが逆に、白が押しをすぐにでも打ちたい、という理由にほかなりません。
●メモ● 今回のテーマ図は左上隅を白が占めているが、「黒が占めていたとしても、やはり1図の白1および4図の黒1の価値は絶大です」と鈴木七段。中央の力関係はそれくらい重要だということで、「この力関係の強弱が、他の隅や中央における将来の着手に必ず影響を及ぼしてくるのです」。