上達の指南
(4)先を予想し工夫凝らす
(寄稿連載 2016/07/19読売新聞掲載) 教室には夫婦で通っている方がいます。夫人が「ヒカルの碁」で興味を持って、教室を探していたようです。ご主人が様子を見に来て、ここなら安心だということで夫人を連れて来てくれました。今回はご主人の碁を取り上げます。2段くらいのなかなかの打ち手です。
【テーマ図】 白番です。模様を囲うなら白1がバランスの取れた好点。しかし黒2のボウシも急所で、白3、黒4と囲い合うことになりそうです。黒6までの模様比べは黒の方が有望です。ここから白が右辺に飛び込むのは無謀です。そこで白1の前に黒陣に仕掛けて行きました。
【1図】 白1のツケで様子を見たのです。黒2と隅から受ければ、白3のハネが利きます。白5の開きから7とつけて11のカケツギまで立ち回りました。
【2図】 実戦の続きです。黒1は大きなスベリですが、Aくらいに入りたかった。すかさず白2と中央を囲ったのが機敏な好手。黒3に白4と飛んで、白模様が大きくまとまりました。白2でBの飛びは広げ過ぎ。黒2あたりに飛び込まれると捕まえるのは難しくなります。
単純な囲い合いでは分が悪いと考えて、囲う前に黒陣に仕掛けていった判断が素晴らしかった。先を予想して工夫を凝らすのが大切です。碁盤の上に自分の構想を実現していくことこそ、碁の醍醐(だいご)味です。飛躍をめざし、大いに工夫しながら楽しんでください。(おわり)
●メモ● 王五段は温泉巡りが趣味で、日本中の名湯を訪ねている。ちょっと癖のある温泉が好みで、時間があれば源泉を探してどこへでも足を延ばす。1日に8か所の温泉に入ったこともある。対局はもちろん、指導でも頭を悩ませることが多いから、気分転換には最適という。