上達の指南
簡明モットー 渋い一着(上)
(寄稿連載 2018/04/04読売新聞掲載)国際棋戦「第2回ワールド碁チャンピオンシップ」(ワールド碁)が3月17~19日、東京・市ヶ谷の日本棋院で行われた。優勝は、昨年に続き韓国の朴廷桓九段。世界のトップ棋士たちはどんな戦いを見せたのか。準決勝、決勝から、印象に残る場面を金秀俊八段に解説してもらった。(編集委員 田中聡)
朴九段と決勝で対局したのは、日本の覇者、井山裕太棋聖。「井山さんの碁は序盤に華麗な手が出ることが多く、相手を自分のペースに引き込んでいくのがうまい」と金八段はいう。
韓国ナンバー1の朴九段も、そういう特徴は当然、承知。「井山さんは読みが深いので、なるべく簡明に打とうと思っていた」と局後に明かしていた。
さて、金八段が決勝戦のポイントとして挙げたのが、「テーマ図」の場面だ。少し白が足早に立ち回っているように見える局面、井山棋聖が黒1と戦線を拡大したところで、朴九段は白2とハサミツケた。
「普通はイとでもはねるのでしょうが、ロと△の2子の間を割いてこられるのがイヤ。そういう手を打たせないようにする『場合の手』です」
「実戦の進行1」を見てみよう。井山棋聖は黒1から下辺を仕掛けていったが、「白2と取られては、やはり良くない」と金八段はいう。「参考図」の黒1と伸び、「黒3とこちらを切って黒9まで実利を稼ぎ、右辺を黒11~15と消しておけば、これからの碁だったのでは」。
実戦は黒15まで一応、下辺を制した。とはいえコウ残り。「白4の石の動き出しも残って気持ち悪い」。劣勢を意識したか、井山棋聖はこの後、勝負手を連発した。「『実戦の進行2』の黒1に対する白2も印象的ですね。白イと出て行くような手もありますが、黒2、白ロ、黒ハと3子を取る手が残るのがイヤなのでしょう」。左上隅の味も強調している。
「簡明」をモットーとし、井山棋聖に何もさせない、とでもいいたげな白2。江戸時代の名手、八世安井仙知(1776~1838年)の「ダメの妙手」を思わせる渋い一着だった。
●メモ● 昨年の第1回「ワールド碁」は、日本、中国、韓国のトップ棋士と囲碁AIの4者によるリーグ戦だった。今回は、日中韓と台湾のトップ棋士6人のトーナメント。第3回はどんな形式になるのだろうか。試行錯誤を繰り返しながら、大会が育っていく姿を見るのも楽しみだ。
黒 井山棋聖
白 朴九段