上達の指南
強攻策が奏功 趙に雪辱(下)
(寄稿連載 2018/04/25読売新聞掲載)Zenの「最後の対局」の相手は、趙治勲名誉名人。2016年には三番勝負で2勝1敗とZenを下している。とはいえ、そのころに比べ「Zenの実力は相当上がっています」と解説の金秀俊八段。「テーマ図」はその「最後の対局」の序盤だ。
左上隅の小目に高くかかった趙名誉名人に対し、Zenは▲と一間に挟んだ。隅を利かし、△と趙名誉名人が挟み返したところで、Zenは、黒1~5と戦いを仕掛けていった。
「強気な作戦ですね」と金八段。「Aとコスめば穏やか。Bと割いていく手もあるでしょうか。黒5も厳しい手です。イともう一路遠くに挟んだり、ロと右上隅の締まりを兼ねたりする方が普通だと思います」
結果的にはこの強攻策が功を奏した。「実戦の進行1」を見てみよう。趙名誉名人は白1と飛んだが、黒2のノゾキが機敏だった。
「イと継ぐのは棒石になって攻められそうなので、白は3、5を利かして7と押しましたが、黒10まですでに黒ペースかも」
上辺はイの出からの味残り。A、Bの割り込みも気持ち悪い。「白は『参考図1』のように打つべきだったのでは」と金八段。白19までになれば、実戦よりもはるかにくつろいだ形だ。
上辺の戦いが進み、次の分岐点が「実戦の進行2」の局面だ。趙名誉名人は白1と打ち、上辺から中央にかけての黒への攻撃態勢を取った。しかし、黒12の割り込みがカウンターの痛打。上辺の大石の眼形がなくなってしまい、まもなく趙名誉名人の投了となった。
「『参考図2』の白1と生きを確保しておくべきでしたね。黒は2ぐらいでしょうか。依然A、Bの狙いがあり、形勢は芳しくありませんが、これなら息が長かった」と金八段。
上辺の機敏な動き。勝負手に対する的確な応対。この碁ではZenの「ポイントの取り方のうまさ」が目立った。「全体的に筋もよく、アマチュアも参考にしていい碁」と金八段。「DeepZenGo」のプロジェクトは終了するが、これだけ成長した囲碁AIなのだから、今後も何かの形で囲碁界に生かしてもらえれば、と思った。
●メモ● Zenを思考エンジンとして搭載した市販ソフトが「天頂の囲碁7 Zen」(マイナビ)。最高モードの実力は「九段」で「相当強い、自分も使っている」と金八段はいう。「早碁を打って実戦感覚を磨いたり、検討の参考にしたり、いろいろな使い方ができますね」
黒 Zen
白 趙名誉名人