上達の指南

世界と戦う「ワールド碁」より(下)

簡明モットー 渋い一着(下)

(寄稿連載 2018/04/11読売新聞掲載)

 ワールド碁チャンピオンシップ(ワールド碁)の準決勝は、片方の山が井山裕太棋聖VS山下敬吾九段という日本勢同士の対戦。もう一局は、朴廷桓九段VS柯潔九段だった。ここでは、韓国と中国のナンバー1がぶつかった後者を取り上げる。

 「朴九段は形にとらわれない柔軟性のある碁。厚みを生かすのもうまいですね。柯九段は地に辛く、シノギに自信を持っています」と解説の金秀俊八段。序盤、上辺で黒の柯九段が地を稼ぎ、朴九段が厚みを築いて、中央にどのくらい白地がつくかが焦点になったのが、「テーマ図」の局面だ。

 黒は1、3と堂々と模様を消しに行き、白も2、4と大きく攻める態勢を取った。ここで黒5とケイマした手が「工夫した手」だ。

 「黒イと二間に飛ぶのは、ちょっと足が伸びすぎている感じもある。イと黒3の石の分断を見られると、少し気持ち悪い」と金八段。

 「ケイマは、A、Bのツケを見ながら、白に『ロのツケコシを打ってこい』と誘いをかけている。白もおとなしく打てば参考図でしょうが、これは黒が楽。誘いは承知で、ロを決行しました」

 「実戦の進行1」を見てみよう。白1に対し、黒は2、4と隅に変わっていった。「(白13までの進行は)先手で隅を生き、黒に不満はないでしょう。中央のまとまり具合が依然として勝負」と金八段。この後、やや柯九段のペースで碁は進み、「実戦の進行2」の局面になった。

 「順調だった柯九段ですが、ここで『らしからぬ』ミスが続きました」と金八段は話す。

 「黒1は筋が悪かった。ここはイと切って、白2、黒ロ、白1、黒ハとする方が明らかに良かった」。さらに黒5が「信じられないポカ」という。「白6~8と中央が切断され、一気に形勢を損じました」

 黒は6に打ち、白A、黒Bとなれば、「まだまだこれから」の局面だった。その後、黒の柯九段が勝負手を連発するが、朴九段は的確に対処して勝利をつかんだ。

 「朴九段の読みの正確さ、安定した打ち回しが目立った一局でした」と金八段は結んだ。

●メモ● 中国ナンバー1の柯潔九段は今大会、「年を取ったせいか、読みの精度が落ちてきた」と嘆いていた。「最近は細かい部分で読み抜けが多い。昔はこんなことはなかったのだが……。自分が一番、強かったのは3年前」とも話していた。ちなみに柯九段は20歳である。

 黒 柯九段
 白 朴九段

【テーマ図】
【参考図】
【実戦の進行1】
【実戦の進行2】