上達の指南
(4)実利が大きい二段バネ
(寄稿連載 2006/10/02読売新聞掲載) 三々に入られたとき、正しく対処するためには、いくつかの定石、決まった形に習熟しておく必要があります。今回は応用範囲の広い、ぜひ知っておきたい手筋を紹介しましょう。
【テーマ図】 大ゲイマにしまっている左下に、黒1の三々。さあ、白はこれにどう対応すればよいでしょうか。まず、次の一手は白AかBのどちらか。そこから数手先まで考えてもらいましょう。知っている人ならば、正解はすぐ浮かぶでしょうね。知らなければなかなか気づかないかもしれません。
【正解図】 白1(テーマ図A)の押さえから、3、5の二段バネ。ここまで見えていれば正解です。
黒は6から8と白一子を取るくらいですので、白9から隅を取ってひと段落です。白5の一子は捨てて十分。隅の実利が大きいですし、左辺黒の形は凝っていますから、白満足の分かれです。黒6で9なら、もちろん白6とつぎます。左辺の黒が傷むので、隅で生きられても腹は立ちません。
また、黒8で9とついでこられても、白a、黒b、白c、黒d、白eと突き抜いて白が戦えるでしょう。
【失敗図1】 二段バネの筋を知らなければ、白1から5と伸びてしまうかもしれません。こう決めてしまう人が意外に多いんです。
白7、9とぐいぐい塗って、白が厚い? いえいえ、これは筋のよくない手なんですよ。この白の形はダメが詰まっていて、黒からaと急所に臨まれる弱点が残っています。傷のある白の外勢よりも、黒の実利が勝る分かれだと知ってください。
【失敗図2】 白1(テーマ図B)と外から押さえる人もいるかもしれません。この場合は黒10まで生きられて、白が甘い分かれでしょう。▲が白の厚みを消す絶好の位置にいますから。
(おわり)
●メモ● 矢代女流本因坊は毎週火曜日、東京・市ヶ谷の日本棋院で三級から三段前後のアマを対象にした教室を開いている。「人前で話すのが苦手だったのですが、もう1年半続いています。こちらも勉強になりますし、楽しいですね」