上達の指南

依田紀基九段の「筋場講座」

(1)石働かせ筋のよい碁を

(寄稿連載 2012/08/28読売新聞掲載)

 「筋場」という言葉をご存じでしょうか。初めて聞かれる方も多いでしょう。当然です。最近、私が発案し命名したもので、石の働きの悪い場所のことです。筋場を知ると石の働きがよくなり、筋のよい碁が打てるようになります。

 【1図】 筋場を思い付いたのは、アマの方との指導碁でした。
 白3に黒4、6と打たれたのです。白7と出られ黒が悪いのは歴然ですが、通常これを説明すると、「裂かれ形で悪い」となります。ただこれだけでは説得力に欠けるようで、そこで気付いたのが筋場でした。
 この形は、黒2、4、6すべての石が筋場に来ているのです。
 筋場とは、石が2子以上並んだときに発生するもので、相手の石が接触していない部分を言います。単独で2子並んでいれば左右4か所、3子なら左右6か所がそれに当たります。

 【2図】 左上は黒、白1子ずつで、筋場は存在しません。左下のように石が2子以上並ぶと筋場が発生します。Aが黒の筋場、Bが白の筋場、Cが双方の筋場です。
 肝心なことは、黒、白ともに筋場に打つのは悪い手になることです。つまり自分は筋場を避け、相手に打たせればいいのです。

 【3図】 ▲のコスミの状態にはまだ筋場は存在しませんが、黒1と打った瞬間、いわゆるアキ三角になり、それぞれ▲が筋場に来て悪い形に一変します。
 アキ三角、裂かれ形など、旧来の格言も筋場で説明できるのです。

 【4図】 1図に戻ってみましょう。▲の3手が筋場に来ていることが分かると思います。
 相手に筋場に打たせるように、また相手の打った石を筋場に持ってくるように打ち進めれば、自然と形のいい碁になります。もちろん形勢も良くなっているでしょう。

●メモ● 依田九段の長男、太陽君(小5)と次男、大空君(小3)が、「小中学校囲碁団体戦」に東京都千代田区立九段小学校チームの主将と3将として出場、見事に全国優勝を果たした。依田九段も応援に駆けつけた。ネット対局で、太陽君は六、七段、大空君は五段の実力という。

【1図】
【2図】
【3図】
【4図】