上達の指南

楊嘉源九段の 作戦の分岐点

(1)踏み込まれても慌てず

(寄稿連載 2017/03/07読売新聞掲載)

 攻めるべきか守るべきか、戦うチャンスなのか無理しない方がいいのか、作戦の分岐点で判断に迷うことが多いものです。この講座では、自陣に相手が踏み込んで来たときに、強気にいくか慎重に受けるか、判断の基準になる考え方を勉強していきたいと思います。
 まずは、自分の模様に相手が入って来たときがテーマです。

 【テーマ図】上辺の黒模様に△と消しにきたところです。けっこう深く踏み込んできましたから、黒イとボウシして攻めたい気もしますが、黒ロと受けておく方が無難かもしれません。どちらを選択するか、勝敗に直結する大事な局面です。

 【1図】黒1のボウシは威勢はいいのですが、じつはやり過ぎです。白2と飛び込まれると意外に攻めが続かないのです。黒3と詰めて根拠を奪いに行っても、白4のツケから6のケイマも利かして8と肩を突くと眼形には困らない形です。いつの間にか右上の黒石が弱くなっています。黒の模様がすっかりガラガラで劣勢です。

 【2図】黒1と受けておくのが冷静です。白2と飛んで逃げられますが、慌てず騒がずじっくり構えましょう。黒3のノゾキを一つ利かしてから、黒5の肩突きで下辺に黒石を向かわせます。それから黒11と上辺の白に迫ります。自然に相手にプレッシャーを掛けて、黒13まで左辺の黒模様を広げます。無理をせず、じわじわと自分のペースに巻き込みます。すでに黒が負けにくい碁になっています。

●メモ● 楊嘉源九段は台湾出身。1970年4月29日生まれ。85年入段、2000年九段。94年本因坊リーグ、96年名人リーグ、00年棋聖リーグ入り。06年に通算500勝達成。棋理に明るく、分かりやすい解説には定評がある。日本棋院東京本院所属。楊嘉栄八段は実弟。知念かおり六段は夫人。

【テーマ図】
【1図】
【2図】