上達の指南

楊嘉源九段の 作戦の分岐点

(3)力関係を冷静に判断

(寄稿連載 2017/03/21読売新聞掲載)

 相手の壁の前では、圧力を感じるのがふつうです。しかし、萎縮してはいけません。壁がどのくらいの威力なのか、冷静に判断する必要があります。反撃の余地があるのか、敬意を払ってうまく立ち回るべきなのか、状況によって変わってくるので要注意です。

 【テーマ図】右下に白の厚みがあります。それを背景に△と打ち込んで来た場面です。△と▲の石の力関係はどうなっているか、石の強弱の判断力が問われる場面です。黒イと構えて攻められないように用心するべきか、それとも黒ロと遮って壁を攻めてもいいのか。

 【1図】黒1とこすんで力を溜めれば手厚い。白の壁の威力に敬意を払って安全第一の方針です。しかし、白2の滑りが絶好です。白は連絡しながら実利を稼ぎました。厚みの効果が十分働いた結果です。これでは黒は物足りないのです。

 【2図】黒1と遮って反撃に出るチャンスでした。白2の一間で根拠を求めますが、この白は簡単に治まる石ではありません。黒3のコスミツケを決めてから、黒5と飛んで白の壁を攻める態勢です。白6の二間には黒7とつけて互いに中央に出て行きます。それから黒11と構えて右上の白の攻めに転じます。将来、黒Aに回れるでしょうから、左辺の白模様に自然になだれ込んで行けそうです。
 白の壁に睨(にら)まれていても、黒1からの壁攻めが正解でした。力関係を冷静に判断する力が必要な場面でした。

●メモ● 楊九段と知念かおり六段は、19歳の長女、17歳の長男、14歳の次女の3人の子に恵まれて幸せそのもの。最近も長女と次女を連れて台湾に帰省して、久しぶりに父母に親孝行したという。知念六段は沖縄の宮古島出身で、二人とも故郷が遠い。いつも里帰りは大旅行になってしまう。

【テーマ図】
【1図】
【2図】