上達の指南
(3)苦し紛れの思いつきから
(寄稿連載 2014/12/09読売新聞掲載) 今年の僕はいいところがありませんでした。名人、本因坊リーグで陥落し、棋聖リーグも立ち上がりから3連敗しました。残る2局に勝ってなんとか格好だけはつけましたが、威張れるものではありません。
今回はリーグ入りをかけた最終予選です。この一局に勝ち、6期ぶりに復帰することができました。
【局面図】 よくある布石です。この碁は、黒11と白12の交換によって、左下の白が強くなっている点が、今後の展開に重要な意味を持ちます。溝上八段(現九段)は次に流行の手を選択しました。
【実戦図】 黒19の高い打ち込みです。世界的に流行しています。アマが打ちそうな手ですね。
僕が調べた限りでは、この手が初めて現れたのは2011年2月。三王裕孝九段が片岡聡九段との対戦で打ちました。三王先生は70代。こんな新感覚の手を工夫し、それが世界で使われているのですから、脱帽するばかりです。三王先生は黒23で25と詰め、白23の曲がりに44とすべりました。
【変化図1】 白26では1の一間が本手。黒は2くらいです。
実戦図に戻り、黒41に対し、白42は苦し紛れで思いつきました。これをイのツギは後にロと渡られ眼形を奪われます。
【変化図2】 白1なら黒2の切りから6まで、やはり眼形を脅かされます。黒45と押さえられましたが、左下が強いので白は十分です。
●メモ● 結城九段はたくさんの解説本を出版しているが、最新刊は7月20日刊行の「実戦手筋のテクニック」。「手筋の基礎」「実戦手筋」「私の実戦から」の3章構成で、丁寧に解説している。「僕の本ではアマの皆さんにも分かりやすい部類に入ります」。棋苑図書。1200円、税抜き。
第39期棋聖戦最終予選決勝戦
白 九段 結城聡
黒 八段 溝上知親