岡目八目
(1)囲碁の古書、史料収集に力
(寄稿連載 2018/10/17読売新聞掲載)◇みなみ・ゆうじ
私と囲碁との出会いは、会社勤めをしていた昭和50年代後半、30歳代半ばのことでした。会社の食堂に坂田栄男先生(二十三世本因坊=故人)の著書が置いてあり、ふと手に取ってみたのが始まりでした。
すぐにこのゲームに魅了され、根が凝り性なものですから、多くの囲碁の本を読み漁(あさ)るようになったのですが、ある時、近隣の古書店で「国技観光」という囲碁の本を見つけたのです。
ご存じの方もおられるでしょうが、この「国技観光」は江戸時代の大名人である本因坊丈和が著した囲碁の技術書です。当然ながら和綴じ本であり、骨董(こっとう)品など古い物にも興味があった私は、おもしろそうだと思って、この三冊セットで売られていた本を購入しました。
ところがやがて、この「国技観光」が実は全四巻であることが判明します。私は無性に残る一巻を手に入れたくなり、それからは毎日、あちこちの古書店を巡り歩くことになりました。
そしてこの際に、様々な囲碁の古書や文献、史料の存在を知り、その魅力に取りつかれたことが、その後の囲碁史探究の道に足を踏み入れるきっかけとなったのです。
囲碁に関係する本や物ならば、とにかく何でも集めようと決心し、まずは昭和30年に出版された囲碁の歴史書「坐隠談叢」の中にある「古碁経総目録」に収められている391種類の版本および写本をすべて収集するという目標を立てました。
それから約40年、全国津々浦々の古書店やイベントに足を運び続け、その念願を果たすことができたのですが、そのために要した金額はおそらく億に達しているものと思われます。
(囲碁史研究家)