岡目八目
(3)恩返しで始めた普及活動
(寄稿連載 2013/11/26読売新聞掲載)私のふるさとは北海道小樽市です。囲碁と出会ったのは6歳でした。公務員だった父親が手ほどきをしてくれました。
小5のとき、日本棋院の福田正義先生が北海道へ指導に来られた際、紹介してくださり、神奈川県平塚市にあった木谷道場を見学する幸運に恵まれました。
木谷実先生のもと、大竹英雄さん(名誉碁聖)、石田芳夫さん(二十四世本因坊)など、私と同世代の大勢の内弟子が修業に励んでいました。
数日間の滞在でしたが貴重な体験でした。高3で、高校囲碁選手権大会で北海道の第2位になったのが、私の少年時代の記録に残る戦績です。
社会人となって石を持つ機会がなくなりましたが、23歳のとき転機が訪れました。勤め先の会社が、将来、中南米に進出する計画があると聞き、スペイン語の勉強を始めたのです。ところが計画は頓挫。私は会社を辞めて、当時、日本の若者が憧れていたヨーロッパへ語学の勉強を兼ねての遊学を思い立ったのです。
スペインで通訳、ガイド、自営業などを経て、30歳のときに現地の旅行会社の社員に採用されました。こんな自分を気持ちよく受け入れてくれたこの国に、何か恩返しをしたいと、封印していた囲碁の普及を思い立ったのです。
マドリードの日本大使館の掲示板に貼り紙を出して生徒を募集したり、折り畳みの碁盤と碁石を抱え喫茶店でPRしたりと、手探りでのスタートでした。なかなか思うような反応はありませんでしたが、やがてチェスの愛好家などが興味を示してくれ、徐々に輪が広がっていきました。
(スペイン囲碁協会名誉会長)