上達の指南

人工知能(AI)の碁「UEC杯」と「ワールド碁」から

(1)レベルは飛躍的に向上

(寄稿連載 2017/04/04読売新聞掲載)

 人工知能(AI)の急速な進歩は、現代の碁に大きな影響を与えている。3月に行われたコンピューター囲碁関連の大会を通して、AIの碁の特徴を探った。

 3月18、19日に東京都調布市の電気通信大で行われた「第10回UEC杯コンピュータ囲碁大会」は、例年とひと味違う熱気に包まれた。昨年3月にAI「アルファ碁」が世界に衝撃を与えて1年。トッププロに匹敵する実力のAI同士がぶつかる初の大会となったからだ。

 UEC杯の優勝・準優勝プログラムは、直後の「電聖戦」でプロと対局する。2016年は3子で1勝1敗。棋力が飛躍的に伸びた今年は互先の手合だ。

 国内外から29のプログラムが参加した中で、注目を集めたのは、中国のIT企業・テンセントが開発した「絶芸」と、日本の「DeepZenGo」だ。「絶芸」はインターネット上の対局サイトでプロ棋士を破っている“強豪”。「DeepZenGo」は昨年11月に趙治勲名誉名人と対戦、1勝2敗の成績を収めた。

 18日の予選リーグでは最終戦で両者が対戦し、絶芸が快勝した。19日の決勝トーナメントでも決勝で再戦。一進一退の攻防の末、絶芸が初優勝を飾った。絶芸は開発スタートから約1年。テンセント社の姚星副総裁は「開発は競技ではなく、科学技術の発展のため」と話す。「囲碁には今の人間の知識では分からないこともある。研究を続けていきたい」とも。

 今大会では、「アルファ碁」と同じ「ディープ・ラーニング」(深層学習)の技術を取り入れ、個人レベルで短期間で強いプログラムを作る例が目立った。過去4回優勝の「Crazy Stone」を破って4位に入賞した「AQ」もその一つだ。開発者の山口祐さんは、以前から9路盤用のプログラムを作っていたが、19路盤用に取り組んだのは半年前という。3位の「Rayn」は、プログラマーが基本技術をインターネット上に公開したプログラムを、別の開発者が強化し、大会直前にコンビを組んで出場した。

 「アルファ碁」以降、飛躍的にレベルが上がったAIの碁。その実力は、「UEC杯」に加え、3月21~23日に開かれた「ワールド碁チャンピオンシップ」と、26日に行われた「電聖戦」で明らかになった。では、実際にAIはどんな碁を打ったのか。次回以降は、棋譜を紹介する。
(川村律文)

●メモ● 10回目を迎えた「UEC杯」と5回目の「電聖戦」は、今回で終了することになった。プロ棋士と互先で戦えるソフトが出現し、「一つの目的を達成した感がある」と大会実行委員長の伊藤毅志・電通大助教。来年以降は、囲碁将棋チャンネルなどにより、同種大会の開催が予定されている。

AI同士の対戦は、基盤を使わず行われた