上達の指南
(2)ソフトごとに棋風に差
(寄稿連載 2017/04/11読売新聞掲載) 3月19日に行われたUEC杯コンピュータ囲碁大会決勝に進出したのは、「絶芸」と「DeepZenGo」。「絶芸」は中国のIT企業テンセント社が開発している人工知能(AI)で、「Zen」は日本のドワンゴ社などで開発チームを組んでいる。
解説をお願いした金秀俊八段は「それぞれの棋風の違いが面白い」と話す。
え、AIに棋風?
「そうです。開発方法の違いかどうかは分かりませんが、ソフトによって打ち方が違うんです」
どう違うのか、実際の手を見てみよう。
196手までで白番「絶芸」が中押し勝ちした決勝の碁。金八段が「『Zen』らしい」と挙げたのが序盤、参考図1の運びだ。右下隅で戦いを仕掛けた黒が下辺をえぐり、白が3子を制した場面だ。
「人間ならまず、上辺イの開きを考えますが、右辺ロと打ち込まれるのがイヤ。1~6とあっさり捨てて、打ち込みを緩和しながら白の地を制限したところに『らしさ』が出ています」
「Zen」の特徴は、「大局観に優れ、バランスがいい」こと。「おおらかでプロから見ても自然な手が多い」とも話す。
一方、「絶芸」の長所は、「厳しさと読みの深さ」と金八段。それが表れたのが、参考図2、Aのツケだ。「いったん囲わせて右上に手を付けていく。部分的な読みでは、『絶芸』の方が『Zen』より上に見えます」
実戦は参考図3の1~18と進んだ。右上隅の黒と上辺の白は、コウの絡む複雑な攻め合い。正確な読みで白が制した。
「右下隅には白a、黒b、白cとするコウが残っている。白はそこを見ながら右上隅を打つつもりだったのでしょうか。どこまで読んでこのツケを打っているのか。全部が読み切れているとしたら、恐ろしい実力です」
「絶芸」と「Zen」。「どちらもトップ棋士に匹敵する棋力」と金八段は話している。
(田中 聡)
●メモ● 金秀俊八段は、韓国出身の38歳。趙治勲名誉名人門下で、1996年に入段し、2007年に八段昇段。05年の第30期の新人王戦では、井山裕太四段(当時)を破って優勝した。11年に24勝7敗で、棋道賞勝率第1位賞を受賞。今期の棋聖戦ではBリーグ2組に所属している。