上達の指南
(4)Zen衝撃の形勢判断
(寄稿連載 2017/04/25読売新聞掲載)大阪で3月下旬行われた「ワールド碁チャンピオンシップ」。人工知能(AI)として、はじめてトップ棋士とのリーグ戦に臨んだ「DeepZenGo」(Zen)は、3局目で日本代表・井山裕太棋聖に勝利し、1勝2敗でシリーズを終えた。
特筆すべきは序盤、上辺の攻防だろう。Aと白の井山棋聖が上辺に臨んだ後、実戦図黒1~29とZenは運んだ。左上の一団を捨てて外勢につく「実利と厚み」の分かれだが、ここでは「4子を効率的に取り、上辺も渡ることができたので、『白よし』と判断するプロが多いと思う」と解説の金秀俊八段は話す。
――アマチュアが置き碁でプロを相手にこう打ったら、「この碁は調子が悪かったようですね。もう一局、打ち直しますか」と笑顔で言われそうですね?
「そうですね(笑)。ただ、Zenはそうは思っていなかったようですよ」
このAIの特徴は「碁盤全体を広く見ており、大局観に優れていること」だ。金八段は「碁盤の下側では黒が2手先行しているので、『白模様をうまく制限した』と思っていたのかもしれません」と説明する。実際、Zenはこの局面を「ほぼ互角」と判断していたようだ。
人間同士の碁なら、どんなふうに進行しただろうか。まず実戦図の黒1とはねあげて白2と切った時、「私なら、参考図1の黒1から白12のように、左右を分断しようとするでしょう」と金八段。
本譜のように、黒3と下がった場合でも、「(参考図2の)黒イ、黒ロがそのままの形で取られるのはまずいと判断するでしょうね。黒3から黒7のように打っていって、Bなどの手を見ながら△の3子など、白への攻めをまず考えます」。
いずれにしても戦いを選び、実戦図の黒7と曲がって左上の一団を捨てる、という判断にはなりそうにない。逆に言うと、「捨てても十分打てる」という判断がZenならでは、の明るさだ。その意味では3局中、もっとも「らしさ」が見えた碁だった。
(田中聡)
●メモ● 「ワールド碁チャンピオンシップ」に中国代表で出場した羋昱廷(み・いくてい)九段は江蘇省徐州市出身の21歳。2016年はCCTV杯などで優勝し、柯潔九段に次ぐ中国ナンバー2の実力、と言われている。29日に東京・飯田橋で行われる「日中竜星戦」で一力遼七段との対局が予定されている。