上達の指南

後藤俊午九段が見た「井山棋聖の序盤構想」

(1)度肝抜かれた一間開き

(寄稿連載 2013/10/15読売新聞掲載)

 井山裕太棋聖は五冠に後退しましたが、六冠の偉業を達成する道のりの中で、私はすべての番碁のうち、1局か2局は観戦させてもらえる機会に恵まれました。一人の棋士として非常にありがたいことです。
 私が感心したのは、井山棋聖はどんな場面にあっても妥協せず、最強手を求める姿勢を貫いたことです。これは容易なことではありません。一流棋士でも、優勢な局面になれば妥協の道を探ってしまうものです。それと特に優れているのは、独特の序盤構想でしょう。今回はそんな5局を紹介させてもらいます。

 【テーマ図】 黒7の一間開きには度肝を抜かれました。見たことがありません。白2の高目をとがめようとしているんです。素晴らしいですね。

 【変化図1】 白1の押さえから黒10までの常識的な進行なら、黒ははっきり生きています。そこが眼目なんです。

 【実戦図】 張栩棋聖は黒9に白10と換わり、黒15の押さえまでとなりました。

 【変化図2】 実戦図の白16では白1の構えが常識的ですが、黒2の三々がぴったり。黒4で白が甘くなります。
 実戦図に戻ります。白16から20は非常手段のような打ち方です。黒37まで、黒の思い通りに近い形になりました。
 井山棋聖はテーマ図の黒7を「思いつき」と言っていましたが、研究済みのような気もします。

●メモ● 後藤九段は7年前から日本棋院の関西総本部担当常務理事を務めており、現在4期目。井山棋聖が関西総本部所属なことから、タイトル戦に同行することが多い。月に数回、常務理事会に出席するため上京。大阪ではスポンサー探しや普及イベントなどに追われる。

第37期棋聖戦七番勝負第2局
白 棋聖 張栩
黒 本因坊 井山裕太
(2013年)

【テーマ図】
【変化図1】
【変化図2】
【実戦図】