上達の指南

後藤俊午九段が見た「井山棋聖の序盤構想」

(2)目からウロコのツケコシ

(寄稿連載 2013/10/22読売新聞掲載)

 井山さんが棋聖を奪取した局です。

 【テーマ図】 黒17のツケコシにはびっくり仰天でした。目からウロコです。だれも打った人はいないのではないでしょうか。
 黒11をイと構えるのは、白6と8の二間が軽くなり、仕掛けにくくなります。白はなにかやらせてカウンターを狙うんです。

 【変化図1】 テーマ図の白12で、白1と打ち込んでくれば、黒2、4のツケ二段で反撃します。黒12のハネがうまく、黒18まで、井山さんは「黒がやれるんじゃないか」と思っていたそうです。

 【変化図2】 黒17で、この図のように黒1と守れば堅いのですが、白2とかけついでほとんど安定します。黒1をAは白2、黒Bの後、白1に回られます。

 【実戦図】 白5の抜きはつらい手です。黒6となり、黒は右辺と上辺の両方を打ちました。実に巧みな立ち回りですね。
 変化図2の黒3までと比較すれば、実戦の素晴らしさがひと目で分かると思います。
 さらに将来、イのカドから全体の白を揺さぶる狙いをも秘めているんです。井山さんの独創的な手がきっかけとなって、ほかの棋士の打ち方が変わってくるかもしれません。
 この一年を通じて、井山さんは7大タイトル戦のすべてを打つというとてつもない記録をつくりました。24歳という若さは無限の可能性を感じさせ、私までワクワクしてきます。

●メモ● 後藤九段は兵庫県出身。47歳。現在は同県芦屋市に住んでいる。早瀬弘九段(故人)門下。80年入段、95年九段。85年、大手合第一部全勝優勝。86年、棋聖戦六段戦準優勝。同門に北野亮七段、水戸夕香里三段。門下に岩丸平六段、広島市を本拠にする山本賢太郎五段がいる。

第37期棋聖戦七番勝負第6局
白 棋聖 張栩
黒 本因坊 井山裕太
(2013年)

【テーマ図】
【変化図1】
【変化図2】
【実戦図】