上達の指南
(4)自分を負かした手 試す
(寄稿連載 2013/11/05読売新聞掲載) 井山さんの碁には相場の手が少なく、いつも自己流を貫いています。人まねはしません。ですが、この碁は違います。5年ほど前、羽根直樹九段に打たれた手を逆の立場で試したのです。うまく負かされた記憶が鮮明に残っていたといい、自分を負かした手の真価を見極めようとしたのです。物まねとは違います。
【テーマ図】 白22の肩ツキがその手。黒模様を制限しながら、足早にしのいでしまおうという考えです。少し碁形は違いますが、羽根九段にはここから打ち回されてしまいました。白10と早々と三々に入ったのは、この手を打ちたいからでした。
【変化図1】 白22で1なら、常識的でしょう。黒2から4のカカリになりそうです。
【実戦図】 黒23の押しから29のケイマまでは妥当な進行と言えるでしょう。
【変化図2】 白30で1の押さえは、黒2と眼形を奪われ、黒8まで白が重くなります。
実戦図に戻り、白30のケイマから32の押さえは、苦心の早治まりでした。しかし黒33に白34、36とはねついで生きたのは足が遅い。ここに井山さんの誤算があったようです。黒37と開いて不満はありません。黒がやや打ちやすい形勢でしょう。
やはり井山さんには独創的な手が似合います。今回は羽根九段ほどうまくいかなかったようですが、果敢な試みは井山さんをさらに成長させるはずです。
●メモ● 後藤九段は今夏、ソウルで行われた国際棋戦、第18回三星火災杯世界囲碁マスターズの予選に、45歳以上のシニア枠で出場した。2勝したが、惜しくも予選突破はならなかった。本戦の32人に残らなければ、交通費も滞在費も支給されない。「またチャレンジします」と後藤九段。
第38期碁聖戦五番勝負第3局
白 碁聖 井山裕太
黒 九段 河野臨
(2013年7月)