上達の指南

後藤俊午九段が見た「井山棋聖の序盤構想」

(4)最強を求めた手が裏目に

(寄稿連載 2013/11/12読売新聞掲載)

 一年を通じて7大タイトル戦のすべてに出場という快記録を達成した井山さんは、6勝1敗という驚異的な勝ちっぷりをみせています。唯一の敗戦は結城聡九段の挑戦を受けた十段戦で、2勝3敗でタイトルを奪われました。

 【テーマ図】 白10、12は珍しい趣向で、黒21まで、実戦例は数局ある程度です。
 白22のワリコミには驚くほかありませんでした。白イ、黒22では物足りなかったんですね。

 【変化図1】 黒1の受けなら、白2に黒3となり、後で白Aの曲げがよくなります。白の思い通りの進行でしょう。

 【実戦図】 黒23と上から当てたのは当然の反発。黒25の出が肝要です。

 【変化図2】 これを黒1とつぐのは白2とされます。黒3の押さえには白4と切られ、6、8の二段バネから16まで先手で締め付けられます。白の大成功でしょう。
 実戦図に戻り、黒45まで、白は黒3子を取りましたが、黒イの渡りが残っている上に、白32、34、40の3手がすべて悪手になっています。これは明らかに白がだめです。
 井山さんは局面にあった最強手を求める棋風ですが、それが裏目に出た一局と言えるでしょう。こんなこともあります。
 序盤早々、だれも思いつかない手が多いから、目の離せない碁なんですよね。
(おわり)

●メモ● 後藤九段の趣味のひとつにゴルフがある。3か月ほど前、兵庫県宝塚市で開かれたスポーツ紙主催のプロ・アマ・チャリティーゴルフ大会に出場した。プレーしながら、高橋千晶プロから親切なアドバイスを受け、「目からウロコでした。これから飛躍的に上達しますよ」。

第51期十段戦五番勝負第3局
白 十段 井山裕太
黒 九段 結城聡
(2013年4月)

【テーマ図】
【変化図1】
【変化図2】
【実戦図】