上達の指南

河野臨九段の「今年この一手」

(1)絶妙のタイミングの置き

(寄稿連載 2011/11/29読売新聞掲載)

 今年もあとひと月余りとなりました。たくさんの碁が打たれ注目を浴びました。その中から私が印象に残った手を紹介したいと思います。
 年頭を飾る棋聖戦は、張栩棋聖に井山裕太名人が挑戦して盛り上がりましたが、井山さんが失速して張棋聖の牙城は崩せませんでした。その第1局です。

 【局面図】 黒が右辺で地を稼ぎ、白は中を厚くして白26から32と下辺の黒に襲いかかりました。黒はどうしのぐか。工夫が必要な場面です。

 【参考図】 黒1とこすんで中に進出を図ろうとすれば、白2のもたれ攻めがあります。白10まで封鎖されて黒が苦しい展開です。

 【実戦図】 黒33と置いて白の出方をきいたのが絶妙のタイミング。戦上手な井山さんならではのシノギの好手でした。
 白34で39のツギなら黒43とこすみます。黒34とはえば、ほぼ生きに近い眼形を得るので、黒33、白39の交換が大きな利かしになっているのです。
 白は34と反発しましたが、今度は黒35が手筋。黒39と伸びて2子を犠打にし、黒41のツケも石が張っていて、すっかり筋に入った感じです。黒43と膨らめばもう攻められる心配はありません。この折衝で黒は早くも局面をリードしました。

 【変化図】 白42では白1の割り込みから攻め合いも考えられます。しかし、黒14まで攻めあいは黒の一手勝ちです。

●メモ● 河野九段は東京都出身、30歳。小林光一九段門下。1996年入段。2005年、第31期天元戦で山下敬吾天元を3勝2敗で下して天元位を獲得。続く32期、33期も山下九段の挑戦を退けて3連覇を果たした。若手の星として注目されたが、ここ数年は雌伏気味。さらなる飛躍が待たれるところだ。

第35期棋聖戦七番勝負第1局
白 棋聖 張栩
黒 名人 井山裕太

【局面図】
【参考図】 黒9(2)
【実戦図】
【変化図】