上達の指南

河野臨九段の「今年この一手」

(3)大胆な手抜きでリード

(寄稿連載 2011/12/13読売新聞掲載)

 坂井碁聖に羽根九段が挑戦した碁聖戦は、坂井さん2連勝の後、羽根さんが3連勝し、大逆転で碁聖を奪取しました。取り上げたのは第4局。羽根さんが機敏な立ち回りを見せて完勝しました。

 【局面図】 右下、白20は前回紹介した本因坊戦でも出てきた羽根さん愛用のノゾキ。白42で一段落し、黒43のカカリに白44と挟んで戦いは左上に移りました。黒55に対して白はどう対応するか。

 【参考図】 白1と押さえるのが普通ですが、黒2とノゾキを利かされて4と隅に先着されます。白はこの図を避けたいのです。

 【実戦図】 白56、58とつけ切り、60と当ててから62にまわりました。度胸満点の手抜きで、4手1組ともいえる大胆な作戦でした。
 この後、黒63の当てから白72まで進みました。参考図と比べると白が隅を荒らしていることがわかります。
 途中、黒63で64と切るのも白63、黒69、白72。これも参考図より利かせています。
 白56からの打ち回しはいろいろな場面で応用が利きます。私にも大いに参考になりました。白はここで一本取って局面をリードしました。

 【変化図】 なお、白62で3のカケツギはききません。黒4のワリコミから8と切って振り替わりになり、黒も不満はありません。

●メモ● 河野九段は今年、名人リーグ入りを決めた。来期は棋聖、名人、本因坊の3リーグで戦うことになる。「棋聖戦でリーグ優勝を逃した悔しさはありますが、今年はまずまずの成績だったと思います」。天元戦、十段戦の本戦も勝ち残っていて、「来年はぜひタイトル戦に出たい」。

第36期碁聖戦五番勝負第4局
白 九段 羽根直樹
黒 碁聖 坂井秀至

【局面図】
【参考図】
【実戦図】
【変化図】