上達の指南

小林覚九段の「今年この一手」

(3)厚みを重視した堅ツギ

(寄稿連載 2010/12/07読売新聞掲載)

 ◆第35期棋聖リーグ (白)九段・王 立誠 (黒)本因坊・羽根直樹

 立誠九段、片岡聡九段、王銘エン九段と「四十会」という研究会を続けています。銘エンさんをのぞいて50歳を過ぎたのですが、「四十会」という名前はそのままです。今回はその研究仲間である立誠さんの一手です。

 【実戦図1】 白6のカカリから8と隅にケイマした後、黒9のツケに対する対応です。白12と堅くついだのに注目してください。白20、22と切り下がって黒3子を取るのがいい。
 白の厚みは一局が終わるまで相当光るでしょう。2年ほど前から打ちだされました。ここ10年来、地を重視するのが世界の潮流でしたが、私は最近、厚みが再評価されているように見ています。この手もそうした傾向を物語っています。「四十会」でも白よしの結論でした。

 【参考図1】 白4と押すのが普通でした。これでいい勝負と見なされてきましたが、右辺と下辺を両方打った黒がうまくやっているでしょう。白10と隅をこすんでも感激はありません。

 【参考図2】 白の堅ツギに、黒は隅を確保する打ち方もあります。からく見えますが、黒地は30目ほどで、これくらいではダメとしたものです。一方で、白の厚みは攻めにも模様にもどうとでも使えます。

 【実戦図2】 白36と詰めた時が厚みが生きた瞬間です。黒はイと押さえて生きるくらいですが、白には全く響かない。結局、羽根さんは右下は捨てて転進しましたが、この碁は立誠さんの中押し勝ちでした。

●メモ● 小林九段が木谷実九段に入門したのは7歳の時。14歳で入段する直前、師匠と初めて対局した。1局10分ほどで矢継ぎ早に4局。どの碁も、師匠はひたすら地を稼ぎ、小林少年の大模様にどかんと打ち込んできたという。「あの日がなければ木谷先生に打っていただくことは一生なかったでしょう」

【実戦図1】
【参考図1】
【参考図2】

【実戦図2】