上達の指南
(5)素直で美しいカケツギ
(寄稿連載 2010/12/21読売新聞掲載) ◆第35期棋聖リーグ (白)九段・河野臨 (黒)本因坊・山下敬吾
山下さんは年初に棋聖を失いましたが、6月に本因坊を奪取。さすがの勝負強さです。
【実戦図1】 黒13とかけついだのが今回のこの一手。なんて素直な手なんでしょう。皆さんはいつも打っているかもしれませんね。でも、ある意味で新手なんです。もともとカケツギはある手です。しかしぬるい印象で、ほとんど打たれませんでした。上辺を模様化する意図なら、割り打たれてさっぱりです。しかしここをしっかりさせることが、全局的に手厚いというのが今日の考え方。張栩棋聖がよく打っていたのですが、それを山下さんがマネをし、一挙に今年の定番となりました。
【参考図1】 黒は隅を当てた後、1と開くのが定石でした。20年前までは黒の位が低くてダメとされていましたが、今は白がダメと評価が一変しました。▲の2子が死に切っていないのです。白はそれがいつまでも負担になります。
【参考図2】 そこで黒1に白2とする手が登場しました。ただ、この後の変化が難しく善悪の結論はまだ出ていません。
【実戦図2】 河野さんは白2に割り打ちました。黒5がカケツギとセットの好手。次にイが大きいので、白6はしょうがない。そこで黒7と厳しく行く調子。わざと入らせて攻めにまわったのです。プロは少しでも得をしようとして、大事なことを見落とす時があるかもしれません。「シンプル イズ ビューティフル」です。
●メモ● 小林九段はここのところ、節制に努めている。対局が近づくと、腹八分目とし、アルコールを断ち、大好きな甘いものを控え、夜食もやめる。我慢することでハングリー精神を養いたいという。「負けられない、という気持ちが弱くなっているところがある。自分を甘やかしてはいけないでしょう」