上達の指南
(1)神経細かく注いだハネ
(寄稿連載 2012/11/20読売新聞掲載) 今年打たれた対局の中で特に印象に残った碁を、6回にわたり紹介していきたいと思います。いずれも僕が強い感銘を受けた碁ばかりなので、皆さんにもこの感動が伝わればうれしいです。
最初に取り上げるのは張栩棋聖に高尾紳路九段が挑戦した棋聖戦七番勝負からです。
【テーマ図】 形勢は互角かと思いますが、白1の当てに構わず、黒2と右上をはねた手に驚かされました。
なんともすさまじいタイミングですが、張棋聖には当然ながら意図があるわけです。
【1図】 僕なりに推測しますと、白1の抜きなら黒2のカドから4と掛け、これで「白の大石を取れる」との確信があったのでしょう。
【2図】 白1の受けなら「▲のハネを利かすことができた」点に満足し、黒2に手を戻します。
そして▲と白1の利かしですが、果たして今この時点で打つ必然性があったのかとの疑問は浮かびます。しかし張棋聖は「何かの拍子で白に▲と下がられてしまうかもしれない」という心配をしたのでしょう。
こうした細かい部分にまで神経を注いでいることに、僕はとても感動し、同時に「ここまでしないとタイトルは取れないのか」とも考えさせられたのです。
【実戦図】 白は1と中央をこすみ、黒12までの進行となりました。依然として好勝負ですが、結果は黒の中押し勝ちでした。
●メモ● 三谷七段は1985年生まれ。27歳。安藤武夫七段門下で、2002年入段、11年七段。08年に広島アルミ杯若鯉戦で優勝、09、10年には新人王戦で連続準優勝。若手有望株の一人として期待されている。棋風は力勝負を好む武闘派。研究熱心で、屈指の勉強家としても定評がある。
第36期棋聖戦第4局
白 九段 高尾紳路
黒 棋聖 張栩