上達の指南
(5)斬新な「銘エンワールド」
(寄稿連載 2012/12/18読売新聞掲載) 王九段は「銘エンワールド」と称されるように、独自の囲碁観を持っていて、僕にはとても思い付かないような斬新な構想を披露してくれます。
いつも興味深く見ていますが、今年最も感銘を受けたのがこの碁でした。
【テーマ図】 白1の挟みに対し黒2と二間に飛んだ手に、つくづく感心させられました。
決して人まねではなく、「自分の碁を開拓していく」という強い意志を感じずにはいられません。
僕はどうしても常識というものにとらわれてしまうのですが、王九段の着手はすべてオリジナル。本当にカッコイイと思います。
【1図】 黒1の一間飛びなら常識的ですが、白2と飛ばれた時に、この頭を止めることができません。
実戦で打たれたAの二間飛びは、「白2ならBのツケで止めることができる」との意図なのです。
【2図】 実戦の進行です。山下名人の白1の二間飛びは、頭を止められることを嫌ったものですが、対する王九段の黒2、4、6が奔放というか、本当に打ちたいように打っていて、うらやましく感じました。
善悪のほどは定かでなく、この後の分かれが今ひとつで形勢を損じてしまったようにも見えたのですが、結果うんぬんではなく王九段の素晴らしさがあふれた石運びだったと思います。
●メモ● 王銘エン九段の碁は、棋士からも熱い注目を集めている。毎週打たれる碁の中で「銘エン先生の棋譜を真っ先に並べる」という棋士は多く、山下敬吾名人、井山裕太五冠、趙治勲二十五世本因坊などと共に最も研究の対象になっている。独自の世界観が棋士の琴線を刺激するようだ。
第37期棋聖リーグ
白 名人 山下敬吾
黒 九段 王銘エン