上達の指南
(2)度胸満点の手抜きで反発
(寄稿連載 2012/11/27読売新聞掲載) 山下敬吾名人は碁界きっての力戦家。学ぶことは実に多く、今回もそうした一局です。
【テーマ図】 中国の国際戦で、相手は韓国の若手、金四段。黒1の打ち込みは、左右の白を分断して攻めようとの意図。これに対し右上を白2とツケ越したのが、強烈な反発心に基づく一手でした。手抜きは驚きでしたし、今後の情勢次第では黒イ、白ロ、黒ハのシチョウが成立する可能性もあり、非常に怖い一手ですが、山下さんならではの度胸の良さにほかなりません。
【1図】 白1の飛びから5としていれば普通でしたが、山下さんは相手の思惑通りの進行を嫌ったのでしょう。同時に、この局面で「左上の厚みに幅を持たせることが何よりも優先する」との考えがあったと思われます。
【2図】 実戦の進行です。黒1から3、9と黒石が急所に来ていて、白がつらいように見えるのですが、白12と伸びれば「やれる」というのが山下さんの判断です。黒13、白14に続いて黒イなら下辺を制することができますが、白ロと上辺を止められると、白の幅が雄大になる。黒は15と上辺を打ちました。
【3図】 白1から7と下辺を動いたのが、その後の進行です。下辺の黒も治まっていないので、好勝負でしょう。テーマ図の白2のツケ越しは、確かな判断と度胸に裏打ちされた強手だったと思います。最後に半目勝ちをもぎ取った勝負根性もさすがと言わざるを得ません。
●メモ● 三谷七段は凝り性で、ひとたび興味を持ったものには徹底的にはまる。かつてはジョギングに夢中になり、10キロを楽に走破、体重も5キロ落ちたという。最近は登山にはまっていて、北岳、穂高岳、槍ヶ岳といった高峰を次々と制覇したというのだから、これまたかなりの域に達している。
第1回百霊杯
白 九段 山下敬吾
黒 四段 金昇宰