上達の指南
(3)大勝負で踏み込む勇気
(寄稿連載 2012/12/04読売新聞掲載) 今年の本因坊戦は、挑戦者の井山裕太天元が4勝3敗で山下敬吾本因坊からタイトルを奪取しました。その第2局で、井山さんが印象深い妙手を放ちました。
【テーマ図】 白2と、ここに潜入したのがその手です。黒イの自重なら、白ロの渡りを残して満足です。
【1図】 白1から白3と黒地を削減していれば普通でしたが、井山さんは「黒4、6とされて自信なし」と見たのでしょう。
【2図】 黒1なら白2、4と出て、黒5までを換わっておきます。将来、白Aと削減に向かった時、何かと働く可能性が高く、一方で△と黒1の交換はほとんど損になっていません。これまた白がうまく立ち回っている感があります。
【3図】 山下さんは黒1と、こちらを押さえて丸取りを狙ってきました。白も簡単に捨てるわけにはいかないので、2から12の動き出しです。
【4図】 その後の実戦です。白14の時に黒15、17が必要。白18とつぎ、黒19の切りとなりました。隅は死にですが、1図に比べて白がかなり食い込んだことは明らかで、白20、22に回っては白が優勢。結果も白の5目半勝ちでした。
井山さんといえども、すべて読み切っていたわけではないでしょう。それでも踏み込んでいく勇気と「大丈夫なはず」との感触をつかむ嗅覚――。大勝負で勝てる理由を見せつけられた気がしました。
●メモ● 三谷七段は2009、10年に新人王戦連続準優勝。10年には王座戦本戦で準決勝まで進出し、挑戦者まであと一歩と迫った。「いずれタイトル戦に登場」の期待もふくらむ。本人は「王座戦で手応えを得た反面、超一流とはまだ少し差があると感じているのも事実。もっと勉強して強くならないと」。
第67期本因坊戦七番勝負第2局
白 天元 井山裕太
黒 本因坊 山下敬吾