岡目八目
(5)碁以前に「しつけ」が大切
(寄稿連載 2006/03/13読売新聞掲載)緑星学園はプロ棋士の養成所ではなく、碁に情熱を持つ若い人なら誰にでも門戸を開いています。
私が一番重視していることは、碁以前にしつけです。今の子供たちは自分から進んでやることが苦手です。たとえば、挨拶(あいさつ)と返事ができません。これは最低のしつけですが、今は家庭、学校でもなかなか教えられていないようです。
玄関から入ってきて挨拶がないときは、やり直しをさせます。しっかり挨拶ができないと、碁盤の前に座らせません。返事も「ウン」というのではやり直しで、「ハイ」と言わせています。自分の気持ちを前に出すには、はっきりと物を言うことが大事なことです。
また、「こうやるんだよ」と注意すると、怒られたと勘違いしがちです。「怒る」と「叱(しか)る」は違います。怒るのは感情ですが、叱るのは、愛情が根幹にあります。注意したとき委縮するようではいけませんから、日常の生徒と私の信頼関係が大切になってきます。
こうして学園の空気がピーンと張り詰めていればよいのですが、空気がよどむといけません。子供たちはどうしても安易なほうに引きずられがちです。
ダレてくると、カミナリを落とすことも必要です。
碁の方は、私が直接手をとり足をとり教えることは、あまりしません。小さい子供、若い者には説明や講釈はあまり必要ありません。「やぼ説教、すればするほど駄目にする」と私は言っています。
その代わりと言っては何ですが、私も生徒と一緒にリーグ戦に参加して勉強はしています。学園には、今でも充志(加藤八段)、知親(溝上八段)はじめ10名くらいのプロ棋士、院生10名ほどが通っています。うち3名は住み込みです。
私もレーティング戦と早碁の彗星戦という二つの棋戦に入っていますが、成績によって順位が上下するという厳しいものです。
私が76歳になった今も現役としてやっていられるのは、学園で若い人たちと一緒に勉強できるお陰です。
(緑星学園主宰)