上達の指南
(2)戦機開いた白のつけ返し
(寄稿連載 2006/05/15読売新聞掲載) ◆第26期棋聖戦第6局 (白)七段・柳時熏 (黒)棋聖・王立誠
(選 小嶋高穂九段)
第26期の挑戦者は30歳の柳七段。前期あたりから、挑戦者が若くなる傾向が強まってきた。棋聖戦史上、初めて終局時点をめぐるトラブルとなった運命の第5局で王棋聖が3勝2敗とリード、山場の第6局を迎えた。本局の立会人は小島高穂九段だった。
高見亮子さんの観戦記には、「わだかまりがなければいいが……と心配されたが、現地入りした両者にそんな様子は見えなかった。緊張気味の王と、明るい柳。それぞれ表情は違うが、この局に全神経を集中させて、プレッシャーと戦っている様子がうかがわれた」とある。
中盤までは互角の形勢で、中央をどう打つかが焦点になっている。黒1とぶつけて中央経営を目指したのに対し、白2とつけ返したのが名場面。黒1の前に黒イ、白ロを利かしておく方が後々の戦いに有利になっていたという。白2について楊嘉源九段は「素晴らしい手。柳さんは前日から考えていて、(黒1を)待っていたのかもしれません」と解説している。ここから空中戦が始まる。
変化図、黒1のハネは気合だが、白6、8と抜かれる。黒23と囲っても、右下の黒が薄くなり、得策とは言えない。
王棋聖は実戦図、黒1と伸びた。白4に黒5と切る一手だが、11までは通常なら筋にはまった格好だ。結局、白30まで、華麗な振り替わりになった。小島九段は「白有望」と判定した。
この後、二転三転したが、最後にミスをした柳が敗れ、王が3連覇を達成した。
小島九段は「白のつけ返しには敬服した。見所の多い好局だったね」と振り返った。
(赤松正弘)
●メモ● 第26期棋聖戦は、王立誠棋聖が挑戦者の柳時熏七段(当時)を4勝2敗で下して防衛、3連覇。第5局でのトラブルについて、王は「あのとき言わなかったら、たぶん一生後悔したでしょう」。