上達の指南
(6)安全を期し奈落の底へ
(寄稿連載 2006/06/12読売新聞掲載) ◆第29期棋聖戦 第2局 (白)九段・結城聡 (黒)棋聖・羽根直樹
(選 小嶋高穂九段)
やっと32歳(当時)の結城聡九段が大舞台に登場してきた。新調の羽織はかま姿で。関西棋院の所属棋士が七番勝負に出場するのは、第1期、橋本宇太郎九段が藤沢秀行九段と初タイトルを争って以来、実に28年ぶり。しかも、名古屋(羽根)対大阪(結城)の対決は七番勝負史上、初の図式とくれば、周囲はいやが上にも盛り上がる。
相手の手の内を探る意味もあったのだろうが、第1局は序盤から遅々として進まなかった。23手の封じ手は、棋聖戦では、小林覚九段が趙治勲棋聖に挑戦した第21期第3局の20手に次ぐ短手数2位の記録だった。
鳥取県で行われた第2局に合わせ、関西棋院は「結城聡九段応援ツアー」を催した。右辺から中央に進出した白の大石はまだ生きていないが、それを包囲する黒の形も不安定だ。△と受けた所が名場面。
解説の山田規三生八段(現九段)らの研究では、変化図、黒1のマガリが正解だった。白2と眼を取りにくれば、黒3から7まで、中央黒7子と左辺白6子との振り替わりとなる。これは寄せ勝負だが、「黒有望」という。
実戦図、黒1が敗着で、奈落の底へと転げ落ちてしまう。白2のノゾキに黒6とつげない。すると、白Aと露骨にのぞかれ、黒Bに白12とそわれて黒が取られる。「羽根さんは安全を期したつもりで、最も俗な手を見損じていた。ショックだったろう」と小島九段。
黒3と方針を変更したが、白4、8と冷静にはね下がられて、黒に生きはない。黒11に白12のツケが好手。白16まで、結城九段が鮮やかにとどめを刺した。
(赤松正弘)
●第29期棋聖戦● 結城聡九段が挑戦者となり、関西の囲碁界は大いに盛り上がった。この第2局の観戦ツアーにも50人のファンが参加した。鉄道マニアの結城九段は、時刻表を手に鉄道を乗り継いで単独で対局場入りをすることが多かった。