上達の指南
(4)シチョウアタリで難局打開
(寄稿連載 2006/05/29読売新聞掲載) ◆第28期棋聖戦第6局 (白)天元・羽根直樹 (黒)棋聖・山下敬吾
(選 小嶋高穂九段)
第28期は羽根直樹天元(27)が挑戦者として登場してきた。棋聖戦史上、初の20代同士の大一番であった。挑戦者が立ち上がりから3連勝し、山下棋聖をかど番に追い込んだ時は、「中部総本部に初の3大タイトルか」と日ましに反響が大きくなった。だが、山下棋聖が第4局で踏ん張り、半目勝ってから流れが変わった。第5局は棋聖の完勝だった。
本局の立会人は小島高穂九段。序盤から左上方向で激しい戦いが始まり、大振り替わりが演じられた。いま、右辺でものっぴきならない攻め合いが始まろうとしている。△とこすんだのが名場面。
小島、片岡聡九段らの検討陣は、次に黒イのキリコミで「黒良し」と結論を出していた。
変化図1、白2なら黒7までは一本道。白8に黒9と当ててから11とつぐ。白12の時、黒13が手筋で、攻め合いは黒の勝ち。白12をAなら、黒12とつがれ、眼あり眼なしにされる。
黒のキリコミに対し、変化図2、白2と当てるのは、黒3に白4が絶対。黒5の捨て石が手筋で、7、9から19まで、下辺に脱出して黒が良い。
棋聖は実戦図、黒1と出た。黒5には白Aと決め込んでいたらしい。そこで、黒B、白Cを決めてから、黒D、白E、黒Fとコウを仕掛け、黒Gの所に3コウあるから白つぶれ、が棋聖の読み筋だった。白6のコスミツケがコウ防ぎで、黒8なら白Aで黒がつぶれる。
棋聖は黒7と切り、崩れかけた態勢を立て直した。これは黒Gからのシチョウアタリになっているので、白は抵抗できない。白8に黒9と連打し、棋聖は難局を打開した。
(赤松正弘)
●メモ● 山下敬吾棋聖、25歳。挑戦者、羽根直樹天元、27歳。棋聖戦史上初めて20代同士のフレッシュな対決が実現した。この七番勝負の直前、2人は天元戦五番勝負を戦い、羽根天元が3勝2敗で防衛。