上達の指南

棋聖戦七番勝負 名場面ベスト8

(7)緩着突き、タイトル死守

(寄稿連載 2006/06/19読売新聞掲載)

 ◆第29期棋聖戦 第7局 (白)九段・結城聡 (黒)棋聖・羽根直樹
  (選 小嶋高穂九段)

 2勝2敗から結城九段がリードし、羽根棋聖が追い付いて迎えた最終局は、握り直して棋聖の先番。3大棋戦の第7局は、白番の19勝9敗、第6局の勝者は、第7局に17勝11敗というデータもあった。
 立会人は小島高穂九段、解説は小林光一九段。小林九段は棋聖戦10回を含めて七番勝負を25回、第7局を7回も経験している。打ち掛けの夜、結城九段は眠れなかった。それを聞いた小林九段は「初めての七番勝負で、しかも最終局だから、眠れない方が自然でしょう」と、自身の体験と照らし合わせて感想を述べていた。
 本局では、関西棋院から若手棋士を中心に10人以上の応援団が対局場に繰り出した。それがかえって、結城九段のプレッシャーになっていたかもしれない。
 互角の形勢が続き、▲と二線を押さえたところが名場面。ここの薄い白4子をどう補強するかが当面の課題だった。小林九段は変化図、白1のツケを推した。黒2のはね出しから4とはい込めば、白も勢い5と引く。黒6、8に白9のコスミが好手。白11に黒12の連絡は絶対だが、白17となって、黒は戦いきれない。そこで、黒4では5と抱え、白10、黒A、白4という進行になる。これなら白は厚く、形勢不明。
 実戦図、白1のハネは、黒に手抜きされ、空振りに終わってしまった。

 結城九段の、関西棋院に五十余年ぶりに3大タイトルをもたらすという夢は成らなかった。小島九段「カド番に追い込まれてからの羽根さんは開き直って、自分を取り戻した。第6、7局は冷静さが光っていた」。
(赤松正弘)

●第29期棋聖戦● 最終第7局に勝利した羽根棋聖が4勝3敗で初防衛。2勝3敗とカド番に追い込まれた羽根は、「辛抱強く打つよう心がけ、第6、7局は満足できる碁が打てた」。自分を取り戻しての勝利だった。

【名場面】
【変化図】
【実戦図】