上達の指南

棋聖戦七番勝負 名場面ベスト8

(5)こだわりが呼んだ大捕物

(寄稿連載 2006/06/05読売新聞掲載)

 ◆第28期棋聖戦 第7局 (白)棋聖・山下敬吾 (黒)天元・羽根直樹
  (選 小嶋高穂九段)

 挑戦者の羽根直樹天元が一気に3連勝した後、山下敬吾棋聖も3連勝と巻き返し、七番勝負は最終局へともつれ込んだ。七番勝負史上、3連敗3連勝は5度あったが、結果はすべて、追い上げた側が3連敗4連勝の大逆転勝利を収めている(趙治勲九段3度、林海峰九段2度)。そうした前例があるだけに、予想は8割方、「山下乗り」に傾いていた。
 終盤に入って、形勢は黒がややリードしていた。黒1、3とはね下がり、白4とふくれた所が名場面。
3でイとつぎ、白ロの生きを強要してから、黒ハ、白ニ、黒ホの二段バネで下辺を囲えば、黒の盤面約10目のリードは動かなかった、といわれる。

 黒3は下辺が地になった場合、イより3分の1目得になる。天元は局後、「もしこの3分の1目が影響して半目負けたら、悔やんでも悔やみきれない。だから頑張った」と心中を明かしている。
 この頑張りが、棋聖戦史上でもまれな終盤の大波乱を呼んだ。白4に変化図、黒1とは押さえられない。白2の生きに黒3とはねると、白4と切りを入れられる。白10に黒11なら、白12から18まで、黒模様が崩壊してしまう。黒11を13の妥協ではコミが吹っ飛ぶ。
 そこで、天元は実戦図、黒1と白の眼形を奪った。黒5となり、大きな詰め碁である。棋聖は白6の手筋を放ち、12と出たが、黒13の下がりが冷静な対応策で、際どいながらも、白にしのぎはないらしい。天元はついに白の大石を召し捕り、棋聖位を手中にした。
 小島九段「豪胆かつ冷静ですねえ。ドラマチックだね」
(赤松正弘)

●第28期棋聖戦● 挑戦者、羽根天元3連勝、そして山下棋聖3連勝。両者激闘の末、最終第7局を制したのは羽根天元。中部総本部に初の3大タイトルをもたらした。第7局、近視の羽根天元は初めて眼鏡をかけ、対局に臨んだ。

【名場面】
【変化図】
【実戦図】